或る暑い体育の授業時間だった




暑さにうな垂れた生徒達は、グラウンドで教師を待つこと15分




何時にも増して太陽の紫外線が強く、皆体操着など今すぐ脱ぎ捨ててしまいたいのが本音だろう





流石にこの炎天下に絶えかねた生徒達は教室へと戻っていったが、全員帰るわけにもいかず




3年の或るクラスでは、じゃんけんで負けた2人が炎天下の中、グラウンドで教師を待つという一種の


罰ゲームが開催されていた










「で、何で私と謙也やねん」
















P.E.L



















始まりは、一人の男子生徒の言葉だった










「2人、此処に残って先公待つっちゅうんは、どうや?」










彼の提案に、誰も反対する者は居なかった




賛成の声が広がり、生徒達はゲーム感覚でじゃんけんを始める




男女両方から一人ずつ決めるのも、罰ゲームの一つのなのだろう







まさか言った張本人が、待つ羽目になるなど思っても見なかったのだろうが














「謙也って、ほんまアホやんな」




「うっさいわ」














じゃんけんで負けた生徒二人は出来るだけ日陰のある居場所を探す




此の二人こそ、罰ゲームの提案者である忍足謙也と其の幼馴染、なのだが




二人とも、お互いの顔を見てため息を吐いた













「あと授業終わるまで何十分あんねん・・」




「先生早よ来てやー・・」














太陽が容赦なく二人に日光を浴びせる




唯、日陰で教師を待つことしか出来ない彼らは地面に腰を下ろした




日陰といっても気温は日向と何等変わりない




グラウンドの硬い砂を背に、は寝転がり、彼女の隣に座る忍足を見つめる




特に意味は無かったのだが、久々に二人きりになって心なしかドキッとしてしまい




平然を装って彼に話しかける













「謙也ヒドいわ・・自分だけ水持参して」




「こんな炎天下の中、持って来んが悪い」




「・・・すみません」





「イヤ、謝るとこちゃうやろ其処」














(――何で私こんなドキドキしてんねやろ)














は内心当惑していた




小さい頃から一緒だった忍足を相手に緊張した事など、今まで一度も無い




顔の熱は太陽が強く照りつけているからではない事に、は未だ気付いていなかった













、水欲しいんか?」











彼の言葉に、は何気なく頷く











「でも、ええよ。・・起き上がるんも面倒やし・・」












上目で見てくるに、忍足の胸が高鳴った




思わず忍足はそう小さく告げるを見下ろし、汗ばんだ彼女の手を軽く握る














「水分は取っといた方がええで」





「・・起き上がる気力、無い・・」













起き上がれない、と言う言葉など単なる照れ隠しだった




は自分の手に彼の温もりが伝わった時、極度の緊張に襲われた




幼馴染と言えど、手を繋いだ事など小学校低学年以来だ




ただその驚きは直ちに恥ずかしさに変わり、顔が少しずつ紅潮していくのが自分でも分かった













「飲めっちゅーねん」




「っ・・!!(近い近い!!)」














忍足の顔が急に近くなり、は自分がどういう状況に置かれているのかを理解するのに暫く掛かった





地面を背にしているに逃げ場などあるはずが無い





何せ、跨られているのだ





傍から見れば押し倒されて居るようにも見えるだろう















「け・・け、謙也ッ・・??!!」














も、此処まで来ると平然を装える程器用ではない




慌てふためいてジタバタしてみるも、一向に効果など或る筈が無いのだが




そんなとは半面に、忍足は空いた手でミネラルウォーターの入ったボトルを手にした













「・・飲むか?」



「の、飲む、飲みます、飲ませてくださいッ!!!」













抵抗できない身である事を知っている為か



素直に飲んでおこうと瞬時に判断したは、忍足の言葉に勢い良く頷く



しかし、当の忍足は目を見開いたままボトルを片手に固まってしまった













「――謙也?」












一向ににボトルを手渡そうとしない忍足を見て、は不思議そうに彼の名前を呼んだ



彼女の言葉にハッとした忍足は、急激に頬を赤く染めて



其れを紛らわすかのように彼の手に在ったボトルの水を口に含めた










「け、謙也、どーしたんっ・・?・・――ん!!!」











今回は、も冷静で居られるはずが無かった



忍足は口に水を含んだまま、に近づき、彼女と唇を重ねたのだ



の口に、急に水の冷たさが伝わり、先ほどまで開いていた目をキュッと瞑った



とっさの事で、しかも地面を背に寝ている状態なので彼女にとっては容易に水を飲める状態ではない



酸素が不足して、徐々に息が苦しくなってくるのが分かる



しかし其れを彼に伝える前に、忍足はから起き上がった











「ケホッ・・ゴホッ・・!!」



「だ、大丈夫か?」













自分でやって恥ずかしいのか、忍足は頬を真っ赤にさせながらも咳き込むに声を掛ける



も相当恥ずかしかったのだろう、耳まで真っ赤になった顔で、大丈夫、と答えた














「け、謙也、何で急に・・!!」




「お、お前が・・・・が言ったんやん・・!」












忍足は未だ状況が分かっていないに対して、一言呟いた














が、"飲ませてください"ゆーたやないか」



「ア、アホ!!!そ、そういう意味、ちゃうわ!!」













漸く意味を理解したは、慌てて忍足にツッコミを入れる




本来なら彼女も怒っているところだが、妙に彼が愛しく思えて、唯笑う事しかな出来ない




忍足は暫くして自分の間違いに気付いたのか、俯いて頭を掻いた



















「ほんま、謙也ってアホやなぁ」




「2回も言うな」
















は、彼を見て薄く微笑んだ







そんな所も、愛してるから


















「・・、好きやで」





「・・私も、謙也の事、好き」

















――彼らの顔の熱は、太陽の日光のせいなんかじゃなくて。