放課後



ほとんどどの生徒が帰った時間帯を見計って、隣のクラスへ足を向ける



自分で誘っといて何やけど、かなり気が重い



これでハッキリに「嫌い」なんて言われたら、一生立ち直れん気がするわ





それくらい、好きやねん





















相対カリキュラム 2




















隣のクラスには、もうしか残っていなかった



緊張しているのか、彼女の背筋はピンと伸び、真っ直ぐ何も書いていない黒板を見据えている



の机の上には未だ授業に使ったと思われるノートと教科書が残っていた




俺は静かに教室の扉を開け、彼女の名前を呼んだ












「っ…蔵ノ介…」








彼女は、俺に名前を呼ばれただけで泣きそうな顔をしていた



分からん。何でや








「…座ってええ?」



「も…勿論…」









俺はゆっくりと彼女の向かいの席へと足を向け、そこに座った



は、俺の顔色を窺うように上目遣いでこっちを見てくる



心なしか、そんな彼女にさえドキッとした



俺はそれを隠そうと、慌てて本題に入った








「…は、何で俺の事避けるん?」



「……」




「…いきなりやったよな」









ほんまに、突然やった



いつもの様に俺たちは学校で会い、そして学校で別れた



その、翌日









「…あの日は、の方が、俺より学校に来るんが早かった」



「…うん」



「俺が、"今日は早いな"って言った所までは、いつも通りやってん」



「……」









でもは俺を見るなり、慌てて自分のクラスに戻っていった



それから、ずっとこの調子








「ええ加減、教えてくれや」





「……」









別に嫌い言うんやったら、嫌いでもええ



俺はそれでも、の事が、好きやから













「私がっ…」



「……」





「っ…どんな気持ちでっ…告白したと思ってるん…!」




「………え?」









何?


告白?









「…誰に?」



「蔵ノ介に決まってるやん…!」










はそう言いつつ、ぽろぽろと涙を流し始めた



状況を全く把握できていない俺は、唖然としながらそんな彼女をただ抱きしめるだけ









「告白って…何の話や?」



「私が、その日早起きしてっ…蔵ノ介の靴箱に手紙入れといたん…知らんの…?」









腕の中で俺を見上げてくるに理性がぶっ飛びそうに為るのを堪えつつ



俺はあの日の事を必死に思い出そうとした










「手紙、なんか…無かったで…」



「…嘘っ…」










が嘘を吐くはずが無い



と言うことは、誰かが俺の靴箱を開け、その手紙を取ったとしか考えられない




いや、それ以前に





って、俺の事、好きやったん?












「…うん」



「じゃあ、俺を避けてたんって…」




「…蔵ノ介が…何も言って来んかったから…」





「……」





「蔵ノ介にとって私は、ただの友達やって意味やと思って…」








やばい








「私は蔵ノ介が好きやのに、蔵ノ介は私を"友達"として見てるって事に…耐えられへんかった…」









可愛すぎるわ









「――んっ…!」









俺は思わず、彼女と唇を重ねた



いきなりの事だったからか、は少し抵抗して来たが、直ぐに大人しくなった



俺が唇を離すと、は頬を紅潮させて俺を見上げて来た








「蔵っ…」



「俺も、の事、好きやで」









そう言いつつ彼女を抱きしめる



はますます顔を赤らめ、俯いてしまった



そんな彼女が愛しくて、俺はもう一度、強く彼女を抱きしめた








「――ずっと、好きやった」


「…ほんま…に…?」


「あぁ」









俺は、腕の中で笑みを浮かべた彼女の髪を優しく撫でた




そして彼女の頬にキスを落とす










「何や、余計な心配やったんやなぁ…」



「私も…蔵ノ介が好きで居てくれたなんて、未だに信じられへん…」











俺たちはそう言うと、顔を見合わせて笑った










「…それにしても、誰が取ったんや…手紙」










俺はが好きで居てくれた事実に幸福を感じつつ、手紙を取った奴に憤りをおぼえた











「…謙也」



「……え?」





「手紙取ったん、謙也…、やと思う…」









俺はが発した言葉に驚きを隠せずに居た










「…何で、そう思うん?」




「今日…私、謙也に…告白、されてん…」


















「――え?」



「…好きやった。…ずっと」





「…謙也…」




「分かってる。…お前がっ…白石のこと好きな事くらい…ずっと、知ってたわ…」



「…うん…」



「やから…あの時も――お前が、白石の靴箱に手紙入れてるん見たときも…」



「………!」





「耐えられんかった。…すまん。ほんま、悪いと思ってる…」



















「謙也はこれ以上は言わんかったけど…多分、謙也が手紙を取った事、言ってるんやと思う」








俯き加減に言うに対して、俺は黙って頷く



謙也がの事想ってんのは、薄々感づいてた





気付けば俺の憤りは何処かへ消えていた




謙也の気持ちも、よく解るから










「…あいつの、気持ちも…解ってやってくれ」



「うん…。別に、謙也を…恨んだりしてへんよ…」










俺はそれ以上、何も言わなかった



これ以上謙也を非難するつもりはないし、も、もう解ってる




この事には、もう触れへんのが一番やろう










「よし…、帰ろか」



「…うん!」









の方を見ると、吹っ切れた面持ちをしていた









「ありがとう…蔵ノ介、ほんま大好き…」



「ああ、俺もや」









俺たちは自然と手を繋ぎ、そのまま教室を出た



もう部活がなく学校に残る必要が無いせいか、廊下には誰一人居なかった



階段を下り、踊り場に着いた所で、は俺のほうに振り返り、呟いた











「明日、一緒に学校行きたい」








頬を赤く染めながら言ってくる彼女に俺は笑みを返し







「じゃあ、迎えに行くわ」






と言って、もう一度、キスを交わした










「これからもずっと一緒に行こな」



「うん…ありがとう」

















今思えば、俺はなんて子供染みた嫉妬してたんやろうと思う



でも俺はその分、彼女を大切にする





今まで恋をした事無かった俺が、最初に愛した彼女やからこそ






移り行くこの街で、恋を捕まえたから