「私、あいつの事、好きなんかも」










ボーイフレンド











部活後――


私は全速力で校庭を駆け抜ける


50m程先に居る、私の唯一の救済者のヘルプを求める為







「謙也ーーーっ!」


「うおっ!、どーしたんや?!」







忍足謙也


彼は私の救済者であり幼馴染で、昔から仲が良かった


だからあいつの事を相談できるのは、謙也だけ








「蔵ノ介に無視された!」


「え…マジか」








蔵ノ介――あの有名な四天宝寺男子テニス部の部長(しかも2年の時から)であって


勉強も出来るし、スポーツも抜群、更に容姿端麗


昔は全然意識してなかったけど、最近になってやっと自分が蔵ノ介の事好きだって気付いた







「何でやろ…私、何かしたっけ…?」





好きになって、なんて言わないけど、嫌いになってほしく無かった(当たり前ですがね!)







「…アイツ、最近俺にも冷たいねん」


「嘘っ…謙也にも?!」








初耳


謙也と蔵ノ介も、同じテニス部と言うだけあって、1年の頃から仲が良かったらしいから


――こんな事、初めてや







も、悩むくらいやったら、やっぱ自分の気持ち伝えた方がええんちゃうん?」


「謙也さんもそう思います…?」








でもこの状況下でそれはかなりキツい


あくまでも私は無視されて、あいつは私の事を明らかに避けてる訳だから


けど、このまま過ごせば、こんな状況がずっと続きそうな気がする








「うー…謙也ー…私どないすればええの…?」


「言ったやん。告白せぇ」


「謙也…知ってるやろうけど私、告白したことないんよ?」







事実上、私は告白したことが無い


ついでにされた事も無い(すごく悲しい)


特別モテる訳でもない私は、彼氏いない暦=自分の年齢、なわけで(本当にすごく悲しい)


告白なんて、本気でどうやってやればいいのか皆無だ!






「やっぱり直接口で言うんが一番ちゃう?」


「…どうやって…?」


「好きです、や」


「…ストレートやな」






ウジウジしててもしゃあないんは、自分でも分かってる


自分の中では腹くくってるつもりでも、やっぱり勇気がいる






「まぁ…何とかなるやんな…?」


「大丈夫やって」


「…蔵ノ介、まだ居る?」


「あぁ、さっき部室におった」


「…謙也、途中まで、一緒に来て」


「勿論やん」






いざという時、謙也はすごく頼りになる


どんな女友達よりも、そういう意味では大親友だと思う







、大丈夫か?」


「う、うん…」






そう答えたものの、告白するのにこんなに緊張するものだとは思わなかった


部室の前で立ち尽くす私に、謙也はポンッと背中を叩く






「自信持てや」


「…謙也…ありがとう」







言わきゃ、意味が無い


もうどうせなら当たって砕けてやろう!


私はゆっくりとドアノブに手を掛けた







「行って来ます!」












「ほんま、敵わんやっちゃなぁ…白石蔵ノ介」














***














「く、蔵ノ介っ!」


「…何?」







居た


いかにも不機嫌そうな顔をしてこっちを見上げてくる(ものすごく恐い)


でも、負けるもんか








「え…えーと…好き…なんです…けど」







この状況で、しかも『好きなんですけど』ってどうやの、私!


蔵ノ介も目丸くして驚いとるし(当たり前)









「…プッ…」


「…え」


「あははははは!」









え?爆笑してるんですけど、このお方


爆笑する場面なんか無かったですよね?(『好きなんですけど』がウケたんか?!)










、ほんまおもろいわぁ…俺の勝ちやな」


「え?…は…話が読めんのやけど…?」


「こっち来てみぃ?」








さっきまでめっちゃ不機嫌やった蔵ノ介が大爆笑して、『俺の勝ち』って


何のはなし?!







「何、何?!全然分からんっ…!」


「こっち、来てみ?」







優しく微笑みかける彼に、思わずドキッとしてしまったけど


半信半疑で彼に近づいている私は傍から見れば、めっちゃ怪しいと思う


蔵ノ介の前まで行くと、彼は手を差し出して来た









「俺の事、好きなんやんな?」


「…っ!」










私は強引に手を引っ張られて、前のめりに、つまり蔵ノ介の方に倒れた


って…はい?









「俺も好きやで」








心臓がバクバクしてる


今の私の状態はというと、あの白石蔵ノ介様の腕の中に居るんですが








「く、蔵ノ介っ…?」



「好きやで、







もう気絶しそうなくらい、極度の緊張に襲われる


ここまで来ると逆に心臓止まってるんじゃないかってくらいの鼓動の勢い









「ほ、ほんまにほんまにほんまなん??!!」


「ほんまにほんまにほんまや」








嘘だ


まさかあっちも、好きでいてくれてたなんて








「…俺の勝ち」


「ど、どういう事なん?!」



「こういう事」







蔵ノ介は私を抱きしめていた手を離して


私の方へと顔を近づけてきた








「っ!」


の方から告白するように仕向けたん、俺やから」








一瞬触れるだけのキスをして、彼は口端を上げてこっちを見て来た


私が蔵ノ介に告白するよう仕向けたって









「謙也にも手伝ってもらったわ」



「謙也っ…?!あ、やからあんなに告白せぇって言って…!」



があいつに相談するなんて、分かりきっとった事やから」










私が謙也に助けを求めるなんて事、彼にとってはお見通しだったわけ


それで蔵ノ介は謙也を味方にして、私から告白するよう仕向けた


で、あんなに不機嫌で私を無視したんもこいつの作戦やった、と


…なんや、それ!






「蔵ノ介は、私の気持ち知っとったわけ?!」


「当たり前やん」






みるみるうちに、顔に熱が集まってくるのが分かる


蔵ノ介も私の事を好きで居てくれた嬉しさと、


私が彼を好きって知っていることを前提で今までいた恥ずかしさが入り混じる









「これからも、よろしゅうな」








彼はそういって、優しく抱きしめてくれた



当の私はただ混乱&放心してるだけで、幸せに浸る余裕なんて無かったんですけど










「私も、蔵ノ介の事、大好き」







この言葉だけは、なんとか絞り出せた